2018.05.17

R&D社会科学班の論文読み会 vol. 1

こんにちは。DSOC R&Dグループの真鍋です。

DSOC R&Dグループでは、有志が集まって、定期的に論文読み会をしています。最新の情報を仕入れて共有することが基本的な目的ですが、こういった定期的な会を設けることで、怠惰な私としては、一定間隔で半強制的に論文を読むようになるという自己研鑽も、隠れた目的にしています。

今、「社会ネットワーク」に関する論文読み会を隔週で開催しています。

参加者は、私と前嶋直樹、戸田淳仁の3名。各自が1本ずつ論文を紹介し、その内容についてディスカッションを行っています。

情報系のバックグラウンドを持った理系の多いDSOC R&Dグループのメンバーですが、この論文読み会は社会科学方面に特化しており、読み会参加者も文系のバックグランドを持っていて、「ちょっとした変り者が集まって親交を深めている」という感じもあります。

これからの記事では、この論文読み会で紹介した論文の内容とメンバーが議論した内容を簡単にまとめていきたいと思っています。以後、よろしくお願いします。

さて、第1回目は前嶋による次の論文の紹介から始まりました。

Race, school integration, and friendship segregation in America
著者:James Moody
発行年:2001年
雑誌:American Journal of Sociology, 107(3), 679-716

論文のまとめ

  • アメリカの高校における人種の人口学的異質性とネットワーク多様性の関連についての論文。
  • アメリカではブラウン判決以降、学区内の人種の人口学的な分布を均等にしようという動きが見られるようになったが、人口学的な分布の点で多様性が担保されていたとしても、その中での友人関係等のつながりが多様な人々の間で行われているとは限らない。
  • 統計的な分析の結果、ERGMという手法を用いて算出された「純粋同類結合効果」と学校内の人種的異質性は、逆 U 字の関係であった。つまり、異質性がとても低かったり、逆にとても高かったりする学校では、異なる人種的バックグランドを持った生徒間でのつながりが多く見られるが、異質性が中程度であると、逆に人種・エスニシティ的に同質な生徒同士のつながりが強くなってしまう。
  • このような人口学的異質性とネットワーク多様性の非線形的な関係は、政策形成にとって有意義である。

所感

前嶋がとても好きな論文らしく、その理由は、「多様性を単に人口比で測るのではなく、実際の紐帯を調査して評価しているところで、そのように多様性を評価すると、むしろ人口比としての多様性が徐々に高まっていくほどにセグリゲーションが進行するため、中程度の人口学的な多様性で、逆に紐帯としての多様性が下がってしまうことが示されているから」とのことでした。

ダイバーシティー施策がうまくいっている組織とそうでない組織の違いも、もしかしたら比率などに起因するセグリゲーションのためなのかもしれませんね。

論文へのリンク

https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/338954

次に、私が以下の論文を紹介しました。

The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Year
著者:Nicholas A. Christakis
発行年:2007年
雑誌:The New England Journal of Medicine, 357, 370-379

論文のまとめ

  • 肥満の伝染についての定量的評価。
  • データは、Framingham Heard Study。1971年から2003 年までの32年間にわたる1万2067人分の社会ネットワークデータ。
  • 家族・友人でネットワークを形成すると、肥満集団(クラスター)が存在している。すなわち、友達が肥満の場合、そうでない場合に比べ、自分が肥満である確率は57 %有意に上昇する。
  • このクラスター化の原因として、「同類性」「共通の外部要因」「誘引」の可能性が考えられる。
  • 同類性(homophily:同じ体型同士が親近性を感じて仲良くなる) の調整として、友人の肥満フラグのラグを説明変数に導入。時間的因果性を考慮している。
  • 環境要因の調整:友人関係の方向性を考慮している。すなわち、自分が友人だと認知していても相手がそう思っていない場合、その逆、双方で友人だと思っている場合と友人の方向性を分けて分析している。結果、自分が友達だと思っている場合は相手が肥満であることの影響を受けるが、相手が友達だと思っているが自分は思っていない場合は影響を受けない。最も影響が高いのは双方が友達だと思っているとき。もしも共通環境要因のみで誘因効果がないなら、影響度は方向性によらないはず。
  • 影響度には性別も関係している。友達が同姓の場合は、異性の場合に比べて影響を強く受ける。
  • このように肥満にはネットワークを介した誘引効果があるため、健康状態への介入は、効率性が見込まれる。一部の人間に介入すれば、その周囲の人間に影響を及ぼすからである。

所感

「朱に交われば赤くなる」をデータで実証しており、肥満という環境や遺伝の要因の強そうな事象に関しても、それらを調整してなお統計的有意に測定できるほど、友人の影響・誘引効果があるということに驚きました。 どのような準拠集団に属しているかによって、人の行動のある程度の部分は決定される、ということを強く示唆しているように思えました。

肥満以外の健康状態やメンタルに関する状態(うつなど)、仕事の仕方、考え方、ライフスタイル(結婚や出産)なども友人を代表とする準拠集団の影響を受けているのかもしれないなどと、皆でいろいろな可能性についてディスカッションしました。

論文へのリンク

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmsa066082

ネットワークのアニメーション動画が楽しいです。

最後に、戸田が紹介した論文です。

A New Method for Identifying Recombinations of Existing Knowledge Associated with High-Impact Innovation
著者:Satyam Mukherjee, Brian Uzzi, Ben Jones, Micheal Stringer
発行年:2016年
雑誌:The Journal of Product Innovation Management, 33(2), 24-236

論文の概要

  • 新しいイノベーティブな研究が、先行研究のどのような組み合わせから生み出されるのかについて、論文の引用ネットワークから明らかにする。
  • 先行研究の標準的(conventional)な組み合わせと非定型(atypical)な組み合わせを調べ、その割合と高いインパクトを持つ研究のような関係について調べる。
  • 可能な先行研究の組み合わせ数は増加しているのにもかかわらず、非定型的な組み合わせは減少している。一方で、標準的な組み合わせは増加している。
  • 非定型な組み合わせは、時間とともに割合が安定し、標準的組み合わせとなっていくが、その分散は高いことから、画期的な研究を生みだしたレアな先行研究の組み合わせは、その後は2度と現れないか、または標準的な組み合わせへと変化していくことが分かる。

所感

引用している論文の組み合わせの珍しさに加え、その中でも珍しい論文の組み合わせが、さらに珍しいかどうかを評価して、論文を区分しているところが面白いと思いました。この方法は、いろいろな分析に応用できるかと思います。

ヒットを生みだすためには、過去の知見の標準的な組み合わせと非定型な組み合わせの混合が必要との示唆でしたが、この考え方はビジネスにも敷衍(ふえん)できるのではと思います。過去にしばられているだけでも、まったく新しいだけでもダメで、そのバランスが必要ということですね。論文の引用ネットワークというデータだけから、こういう面白い知見を導き出す手腕に、みんなで感動しましたが、前嶋が「Uzziの論文はまじ素晴らしいので全部読んでおくべきですよ!」と力説しており、全く読んだことのなかった私は大いに反省しました。

論文へのリンク

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jpim.12294 

執筆者プロフィール

text: DSOC R&Dグループ 真鍋友則

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