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R&D社会科学班の論文読み会 vol. 3

こんにちは。DSOC R&aDグループの真鍋です。

一人1本ずつ論文を紹介する「社会科学班の論文読み会」の第三回目です。今回の参加者も第一回目から変わらず、DSOCの前嶋戸田、真鍋の三人で行いました。

この会は特にテーマを決めていないのですが、第三回目は3本中2本が多様性(ダイバーシティー)に関するものでした。

1本目

Does Diversity Pay?: Race, Gender, and the Business Case for Diversity
著者:Cedric Herring
発行年:2009年
雑誌:American Sociological Review, 74(2), 208-224.

論文のまとめ

  • 「多様性に内包された価値(value-in-diversity)」という考え方。
  • ビジネス事例での多様性でよく使われる概念。
    • 賛成派:多様性はチームメンバーの視点を広げ、より良い解決策を導いたり、利益を増やしたりする
    • 反対派:多様性はチーム内にコンフリクトを生む
  • 多様性がもたらす正の効果は、負の効果を補って余りあるものなのだろうか?
  • 1996〜1997年の全国組織調査データを用いて、組織内のダイバーシティーとパフォーマンスの関連を統計的に検証。
  • なぜ多様性が価値を持つのか。
    • Page (2007) - チームメンバーの個性がイノベーションを促す。
    • Bunderson and Sutcliffe (2002) - 多様な経験を持つメンバーがビジネス上の障害を克服する。
    • Black, Mason, and Cole (1996) - 顧客の中に内集団選好が存在しているため交渉に有利。
    • Richard (2000) - 社内での複雑性を乗り越えることで企業の競争力が増す。
  • 検証 - ビジネスパフォーマンスと組織内の人種的・ジェンダー的多様性の関係を検討。
    • 1996〜1997年の全国組織調査(NOS)のデータを使用。
    • 被説明変数:年間売上高、顧客規模、市場シェア、利益率
    • 説明変数:少数派・多数派がどのグループなのかを考慮した多様性の指標(AID)。
  • 結果
    • 人種的多様性は、売上高・顧客規模・市場シェア・利益率の増加と関連。
    • ジェンダー的多様性は、売上高・顧客規模・利益率の増加と関連。

メンバーの議論

近年では、ダイバーシティが組織にとってプラスに作用するということは半ば常識化しており、多くの経営者がダイバーシティーが大事と主張しています。この論文は、その効果を定量的に評価している先駆的な研究です。

結論として、ダイバーシティーはコンフリクトを生むけれども、組織が強くなるビジネス上の利益の方がそのデメリットを上回っている、というのがこの論文の主張です。つまり、多くの人の主張や直観と矛盾せず、性別や人種のダイバーシティーは組織にとって良いことのようです。ただし、ダイバーシティーがプラスの効果をもたらすメカニズムについては、まだ不明な点も多いようです。

後続の研究も要チェックとしていきたいところです。

論文へのリンク

http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/000312240907400203

2本目

Tie Strength, Embeddedness, and Social Influence: A Large-Scale Networked Experiment
著者:Sinan Aral and Dylan Walker
発行年:2014年
雑誌:Management Science 60(6) 1352-1370

論文のまとめ

  • SNSメディアを利用した社会的影響の計測。
  • 分析の課題
    • 影響度合いには個人の異質性がある。
    • 同時性や内生性の考慮。
  • この研究では、Facebookのユーザーに対し、実験的にメッセージを送ることで、embeddednessや「つながりの強さ」の違いによって社会的な影響がどれくらい異なるかといった因果効果を測定している。
  • 「つながりの強さ」の測定手法
    • face to faceの頻度。
    • 同じ地域に住んでいるか。
    • 共通の趣味があるか。
    • <li同じ写真に写っている頻度など。
  • 実験
    • Facebookのあるアプリケーションを使っているユーザーに対し、influence-mediating messegeを送り、そのメッセージを受けたユーザーが、そのアプリを受け入れるかどうかを測定。
    • メッセージを送るのは第三者が行っているので、トリートメントグループ、コントロールグループを厳密に分けることができる。
    • メッセージの内容に受け手の個人的な情報を使っていないので、受け手が受けるメッセージが効果の異質性を生み出しにくい。
    • サンプルのランダム化によって、トリートメントグループとコントロールグループの直接的な比較が可能。
  • 分析手法
    • メッセージを受け取ってからアプリケーションを受け入れるまでの期間を従属変数としたハザードモデル。
  • 結果
    • 共通の友達がいると、0.6%影響の強さが上昇する。
    • 出身学校が同じであると、125%影響の強さが上がる(同じ大学出身であれば1355%、同じ街に住んでいれば622%)。
    • face to faceや同じ写真に写っているかどうかについては、有意な影響が見られない。

メンバーの議論

共通の友達がいるかどうかよりも、出身大学が同じことや出身地が同じかどうかといった属性的情報の方が効果が強いということに驚きましたが、言われてみれば納得感がある気もする結果でした。

SNSに限らず、face to faceの社交でも大学名や出身地で親近感が沸いたり、相手への信頼性が増すように感じたりすることは確かにあります。わりと普遍的な認知バイアスなのかもしれません。

このような結果は、より影響力の高い情報拡散を考慮するマーケティング活動を行う場合、大学や地域のネットワークを活用することが重要であることを示唆しています。

論文へのリンク

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/mnsc.2014.1936

3本目

Network Diversity and Economic Development
著者:Nathan Eagle, Michael Macy and Rob Claxton
発行年:2010 年
雑誌:Science, Vol. 328, Issue 5981, pp. 1029-1031

論文のまとめ

  • 社会ネットワークと経済的チャンスの関係をビッグデータで調べたもの。
  • イギリスの個々人の電話ネットワークの多様性とその人たちが属する地域の経済力の関係。
  • 6500万人分の1月の電話データ。
  • 多様性の指標にはシャノンのエントロピーを用いている。
  • 多様性の平均値の高い地域、すなわちさまざまな地域に電話をかけている人が平均的に多い地域ほど経済力が高い傾向にあった。

メンバーの議論

論文でも記されていることですが、両社に正の相関が見られたに過ぎず、ネットワーク多様性と経済力の因果関係については、定かではありませんが、経済的に強い都市の特徴として、さまざまな地域と多様なコネクションを持っていることがあるということが示されています。

この論文はイギリスのデータの分析ですが、世界の都市で同じような分析をした場合の結果に興味があります。やはりコネクションのある国数が多い都市ほど、発展しているといえるのでしょうか。テクニカルには、多様性をエントロピー(情報量)で表現している点も参考になりました。すなわち、ダイバーシティー(多様である)ということを「情報量が多い」こととして定量化しています。

論文へのリンク

http://science.sciencemag.org/content/328/5981/1029

まとめ

2本目の論文は、人は同郷であることや同じ出身大学などといった、場合によっては過去時点の履歴にすぎないシンプルな属性情報であっても、他者に対する信用度を上げてしまうバイアスがあることを示していました。

一方で、他2つの論文は、組織や地域経済とダイバーシティーの関係を多様性を調べており、ネットワーク多様性が高いほど競争力も高まっていることを示しています。多様性が高いということは情報量が多いということですから、認知バイアスのポートフォリオを組めることになり、誤った判断を起こしにくくなるのかもしれません。

これらは組織や地域についての知見でしたが、個人についても同様の傾向があるのでしょうか。次回の論文読み会ではその辺りを探ってみたいと思います。

執筆者プロフィール

過去の記事

▼第1回
R&D社会科学班の論文読み会 vol. 1

▼第2回
R&D社会科学班の論文読み会 vol. 2

text: DSOC R&Dグループ 真鍋友則