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神山プロジェクトという可能性

Eight事業部の山本啓治です。
知らない場所に滞在した時に、その歴史背景を説明した書籍を読むことで、その地域に対してより深い理解ができるということはよくあると思います。
今回は業務上の理由で来たこともあって何も知らない状態で来たのですが、休日に部屋に置いてあった"神山プロジェクトという可能性"という本をたまたま読んだところ、非常に面白かったので紹介させてください。当社も少し出てきますが、それを差し引いても面白いです。

https://www.amazon.co.jp/dp/4331520412

内容としては、神山のアーティスト イン レジデンスからサテライトオフィスの誘致に至る現在の流れを支えて来た、NPOグリーンバレーの大南さんと他のキーバーソンを交えた全10回のシンポジウムの内容をまとめたもののようです。話し言葉なので非常に読みやすく、それでいて刺激の多い書籍となっています。 面白かった点として、地域振興の活動で通常こだわる3つの点にあえてこだわらず、1つの点にこだわったことが、結果として成功に繋がったのではと感じました。

観光にこだわらなかった

地域振興と言えば観光がまず思いつきますが、観光そのものに全くフォーカスしていません。
例として、最初に始まったアーティスト イン レジデンスの活動ですが、これは美術館や最近多く開催される芸術祭と異なり、これそのものを見に来る人は美術好きでも多くはありません。
私自身が実は美術好きなのですが、アーティスト イン レジデンス自体は知っていましたが、それ自体を目的としてどこかにいくことはありません。展覧会の為にその期間に作家が滞在しているというケースがあるくらいです。
現在、大粟山に過去のレジデンス参加作家の作品が展示され、一つの美術館のような形になっていますが、これ自体も最初から意図したものではなく、作家が大きな作品の置き場所がないから大粟山に置いたというのが始まりだったそうで、継続によって結果的に観光資源にもなったということだそうです。

雇用にこだわらなかった

次に企業誘致において、通常はそこで地域の人がどれだけ雇用されるかが焦点となりますが、その点もあまりこだわっていません。
サテライトオフィスはIT等の専門職の企業が多いですが、専門職の場合、地域の人の直接雇用にはあまり繋がりません。また工場誘致などと異なり、それほど多くの人が来るわけでもありませんので、周辺産業もそれほど大きく広がるわけではありません。

地方の特色を生かすことにこだわらなかった

地域振興としては、通常はその土地ならではの自然、食材、歴史を生かす方向が多いですが、その点における差別化を生かすことにもこだわっていません。
アーティストインレジデンスにせよ、サテライトオフィスにせよ、どうしてもこの土地でないと難しい部分はありません。サテライトオフィスにおいては空港からの近さやネットの速さはありますが、同様の条件を満たす場所は全国に多くあると思われます。

では逆にこだわった部分は何でしょうか。

誰をどう受け入れるかにこだわった

誰を受け入れるかを自分達で判断するという点には徹底的なこだわりを感じます。
アーティストインレジデンスの受け入れで、学芸員と意見が合わずに、学芸員の推薦を断った点が象徴的です。現在も受け入れ相手の判断には非常に時間をかけているそうです。これは空き家という資源が有限ということもあります。
面白いのは、その基準として"理解"ではなく"信頼"をおいていることです。そもそも自分達にない新しい考えをもたらすことを期待しているのだから、その相手が"理解"可能な範囲では新しい考えは望めません。
理解が難しい他者への受け入れというのは難しいものです。しかし、この点でもホームステイ、アートインレジデンス、サテライトオフィスと徐々に大きい組織、長期間の受け入れという形に受け入れ側を慣らしていくことでこれがうまくいっています。最初からサテライトオフィスだとうまくいかなかった可能性はあります。

ここから学べること

本書でも何度も述べられていますが、これをそのまま他の地域に持っていってうまくいくということはないでしょう。
しかし、自治体だけでなく一般的な組織においても、常識的に必要とされることにこだわらないこと、異文化の人を受け入れることにより、既存の組織に変化を起こしていくことなど学ぶ点も多いように思えます。 地方創生だけでなく、ちょっと毛色の変わったビジネス書としても面白い本だと思います。