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R&D社会科学班の論文読み会 vol. 2

こんにちは。DSOC R&Dグループの真鍋です。

「社会科学班の論文読み会」第2回目の報告です。なんとかやっていきたいと思います。

第2回目の参加者は、スプラトゥーンで全S+を目指して日々腕を磨いている前嶋、子どもが4カ月になって育児でヘトヘトになっている戸田、ハウスダストアレルギーで慢性鼻炎の私、真鍋です。

前回に引き続き、それぞれ1本ずつ論文を紹介しました。

1本目は私が紹介しました。Nicholas A Christakisが肥満感染の論文の翌年にパブリッシュしたもので、今度は肥満ではなく、「幸福の伝播」に関する論文です。

Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study
著者:James H Fowler, Nicholas A Christakis
発行年:2008年
雑誌:BMJ, 337

論文のまとめ

  • データは肥満の研究と同様に、Framingham Heart Studyのコホート研究データ。Framingham Heart Studyは1948年からFraminghamで開始された研究で、5209人の人たちの調査データから始まり、二世代 (5124人)、三世代 (4095人) にわたって調査が継続されている。
  • 調査項目中の「幸福度」調査を用い、社会ネットワーク(家族や友人関係のネットワーク)上での分布を調べると「幸福な集団」と「不幸な集団」が存在していた()。
  • 縦型の統計モデルを分析した結果、「ネットワーク上で幸福な人たちとつながっている人は、将来幸福になる確率が高まる」ということが分かった。肥満の論文と同様に、友人認識の方向性を組み込んだり、地理的要因(同ブロックに住んでいる)も変数とすることで、環境要因を統制している。
  • 近くに住んでいる友人、一緒に住んでいる配偶者、兄弟など、近接している人の影響をより受ける。逆に、友人でも近くに住んでいない場合は影響が見られない。考察で著者らは、「この結果は感情が伝播するという過去の知見と一致する」と述べている。例えば、笑顔は周囲の人々をリラックスさせる。

所感

「周囲が幸福だと自分も幸福になる」という結果は、幸福が他者依存的であるようにも捉えられますが、逆に自分がポジティブな感情を振りまくことで、周囲を幸福にする力があるかもしれないということでもあります。そのような相互作用で集団の幸福度が決まり、それが自分にフィードバックされている、ということなのかもしれません。

論文へのリンク

https://www.bmj.com/content/bmj/337/bmj.a2338.full.pdf

2本目の論文は、戸田が紹介しました。

Collaboration and Creativity: The Small World Problem
著者:Brian Uzzi, Jarrett Spiro
発行年:2005年
雑誌:American Journal of Sociology, 111(2), 447-504

論文のまとめ

  • ブロードウェイの作曲家や演出家間のネットワークと演劇のパフォーマンスの関係を調べている。
  • 関係者のネットワークのスモールワールド性Q(高いクラスター性と短いパス長が同時に保たれている状態)と彼らのミュージカルの成功は、逆U字の関係にあり、Qが大きくになるに従いパフォーマンスは上がっていくが、ある閾値を超えるとその効果は逆転する。
  • スモールワールド性が強い(いつも同じようなメンバーでミュージカルをやっている)と新しく異質な情報が入ってこないので、パフォーマンスは上がらない。
  • 一方で、スモールワールド指数が低く、常にメンバーが入れ替わっているような状態だと、情報やノウハウが定着しなので、パフォーマンスが上がらない。
  • すなわち、パフォーマンスを最大化させるようなネットワーク構造は、中庸なスモールワールド指数を持つネットワークであり、結び付きは低すぎても高すぎてもいけないということ。

所感

前回に引き続きUzziの論文ですが、前回の結論と類似していて、イノベーションのためには同質性と異質性、強い結び付きと弱い結び付きの両方が大事ということを示していました。新規性のあるアイデアを十分に生かすには、培ったノウハウでリスクテイクする必要があるからではないかとのことです。

それにしてもこの論文で示された、関係者の単なるネットワークの構造が、パフォーマンスに影響を与えているという結果には驚きでした。

論文へのリンク

https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/432782

3本目は、前嶋が論文を紹介しました。

Network Duality of Social Capital
著者:Burt, R. S., Bartkus, V. O., & Davis, J. H.
発行年:2009年
書籍:Social Capital: Reaching Out, Reaching In, 39-65

論文のまとめ

  • 社会ネットワークの2つの基本的メカニズムである仲介(brokerage)と閉鎖(closure)がもたらす利益とそのバランスについての論文。
  • 構造的空隙は集団に内在する知識を仲介するバッファーとなる。この媒介によって、集団内部では専門性を深めることが可能になる。集団外部から新たな慣習や意見を取り込むことで、成長の源泉もなる。
  • 投資銀行での報酬は、その大部分が拘束度(構造的空隙の指標)で説明可能。電機会社などの官僚的な組織では、拘束度それ自体での説明力は低く、役職が大部分を説明。しかし、早期に高い役職に就くかどうかが、拘束度によってほとんど説明される。
  • 評判(reputation)は、同僚がお互いによく知っている関係のとき、長い間持続する。
    評判の安定性に対する2つの説明
    人的資本からの説明:その人物が持続的に優れた能力を持つから
    社会関係資本からの説明:社会的ネットワークが閉鎖的で安定的だから
  • 2つのマネジメント戦略
    一つは、仲介手続によって提供された良いアイデアから具体的なものが得られることを確実にするために十分な仲介を実施し、閉鎖からの早期合意を防ぐために十分な仲介を実施すること。もうひとつは、より極端なアプローチで、上級指導者が、社員が会社の他の場所の共同作業者を探してアイデアをスケッチする物理的または仮想的な「共通」スペースを作成すること。

所感

レビュー論文でした。異なる専門集団を結び付ける媒介者の存在が組織に成長をもたらし、評価もされやすいとのことです。とはいえ、媒介が可能なのは閉鎖性強い専門集団が形成されているからで、どちらがより良い、という問題でもないのですが、同質的な専門家集団と媒介者は時折対立しがちなので、生産性を下げる対立を生まないためのコミュニケーションとマネジメントが必要なのだろう、ということを話し合いました。

論文へのリンク

https://faculty.chicagobooth.edu/ronald.Burt/research/files/NDSC.pdf

徐々に(本当に徐々に)、社会ネットワーク系の著名な研究者や、その仕事の歴史を分かってきたような気がします。まだ 2 回目。梅雨なので、雨の日は論文を読みましょう。

執筆者プロフィール

過去の記事

▼第1回
R&D社会科学班の論文読み会 vol. 1

text: DSOC R&Dグループ 真鍋友則