mimi

Sansanの
人・組織・カルチャーを
伝えるメディア

「プロダクトを進化させる」ということ。 SansanのCPOが生み出す景色とは

こんにちは、mimi編集部です。今回は、Sansan株式会社のChief Product Officer(最高製品責任者、以下 CPO)として当社のプロダクトを統括する大津裕史にインタビューします。21年6月に、⽇本のソフトウェアプロダクトをグローバルで通用する水準に引き上げることを目的に立ち上げた「一般社団法人日本CPO協会(CPOA)」について、そしてSansanのCPOとしてのアプローチなどを聞きました。

プロフィール

大津裕史
執行役員 Chief Product Officer

株式会社ビービットにて、デジタル領域を中心に企業のコンサルティングを手掛ける。2010年に株式会社WACULを創業し、代表取締役に就任。ウェブサイトの分析から改善提案まで行う人工知能を開発・提供する。2018年にSansan株式会社へ入社し、CPOとしてプロダクト戦略を指揮する。


プロダクトの力で国内企業をリードする
「CPO協会」発足

昨年CPO協会を発足した経緯について教えてください。

発足のきっかけはKen Wakamatsu氏との出会いです。20年以上グローバル企業の最前線でプロダクトマネジャーとしてプロダクトに向き合ってきた彼から、海外のプロダクトへの向き合い方やSaaSに関することなどの話を聞きました。
そのとき、彼は私に話してくれた情報を、日本国内に強く発信していかないと、海外との情報格差は広がっていくばかりだと、懸念していたんです。
Kenさんから、日本のプロダクトに対して、自分が何かできることはないか、と話をいただいたんです。当初Kenさんが情報発信の場としてメディアをつくったり、イベントを行ったりしてはどうかと考えました。より深く考えていくうちに、個人ではなく、組織として大きな取り組みでやるべきだと思ったんです。そのときに「CPO協会」を発足するイメージが沸きました。

「CPO」の協会が活動をするべきだと?

はい。個人の情報発信にとどめてしまうと、海外と比べたとき、情報の流通量にはどうしても勝てません。また、転職が当たりまえの海外では、企業の最前線にいる人たちがすごいスピードで動いて、新しい現場にそれまでの情報を持ち込んでと、人材が流動して、現場のレベルがどんどん上がっていきます。同じ状態を日本で作るのは難しいので、今、本当に価値のある情報発信をするなら、会社の垣根を越えた「協会」という形で行うのがいいのではと考えました。

Ken Wakamatsu氏を代表理事として、国内を代表するプロダクトのリーダーたちが7名理事として参加していますね。

企業同士はライバルかもしれないけれど、協会の中ではその垣根を越えてプロダクトのノウハウや、それぞれの見ている景色を共有できないか、と。その雰囲気が作れたら、海外と似たような情報共有の形が作れると思いました。加えて、以前から私自身が、国内企業の、プロダクトへの向き合い方に対し、課題を感じていたこともあります。

会社の垣根を越えて、
プロダクトのノウハウを共有

どのようなことを課題に感じていたのでしょうか?

以前、会社を経営していたとき、海外のテックカンファレンスに参加していました。そのとき、彼らとコミュニケーションするたびに、プロダクトに対する構え方の違いを感じていました。その違和感がつながっていると思います。

具体的にはどのようなことですか?

日本だと、ビジネスを実現するために「テクノロジーを高める、開発を進める」という話になることが多いのですが、海外では「このプロダクトは、こういうシーンで使ってほしい」というのがそもそもの出発点なんですね。
そこからもっとよくするために、プロダクトを育てて影響力を大きくするために、利益を生まないといけない。ではそこにビジネスの可能性はあるのか、という展開になります。
植物と水の関係で言うと、プロダクトという植物を育てるために水というリソースを与えている状態です。
一方、会社がビジネスをするためにプロダクトがある状態というのは、育てたい植物は、プロダクトではなく会社。会社という植物を育てるために水としてのITや開発が位置付けられている、そんなイメージです。
この違いを実感するたびに、この人たちはこのプロダクトに賭けてるんだなと感じましたし、彼らはプロダクトを育てることを重視しているので、例えばプロダクトが他企業から買われることに対してもポジティブに受け止めます。小さな会社でコツコツ水を与えているよりも、大企業に買われる方が広い器で栄養のある水をたくさん与えてもらえる、もっと大きく育つと考え、奪われたという感覚に陥りにくいんです。
個人的には、プロダクトに本質的に向き合うときに、会社はあくまで環境のひとつだと思っています。それが今回、会社の垣根を越えて活動する「協会」という形を選択した理由でもあります。

協会発足から半年、
1回目のイベントを開催

21年7月、CPO協会が主宰する1回目のオンラインイベント「PRODUCT LEADERS 2021」は、多くの参加者が集まったそうですね。運営として手応えを感じましたか?

Salesforce共同創業者のParker Harris氏によるSpecial Message、「Confluence」のGMを務めたPratima Arora氏のKeynoteをはじめ、Salesforce、Adobe、Imgur、ServiceNow、Acceldata、QualtricsのCPO/PdMによるオリジナルセッションを用意しました。手応えもありましたが、まだまだよくできると感じたのが私も含め全理事の率直な感想です。

なぜ発足して半年というスピードでイベントをやろうと思ったのでしょうか?

イベントの開催は早い段階で決めていました。というのも、各社のCPOクラスの人間を理事として巻き込もうと決めたときに、彼らが一丸となって、協会を自分ごと化するためには、早い段階で何らかの成功体験を作らなければと思ったからです。
今回のイベントは、集まってくれた方にとって有意義なものになればという思いはもちろんありましたが、イベントによって各理事が協会を自分ごと化してくれたことは大きな収穫だと思っています。

9時間にも及ぶ長時間のイベントでしたが、共通していたテーマは何でしょう?

イベントを構想する段階で、日本のプロダクトの課題や問題はなんだろうと理事たちで話し合ったんですね。そのときに出てきたのが、会社や経営層のプロダクトへの向き合いが弱いことでした。開発する人材への期待のかけ方や役割の配置などについて、会社のトップがもっと興味をもって、その重要性を理解しないと日本のプロダクトは変わらないんじゃないかと、意見が一致しました。
もちろん今後、プロダクトマネジャーの育成やレベルを上げるノウハウを発信したいと思っていますが、私たちがどれだけ発信して、育成に注力しても、活躍できる場所が会社になければ意味がありません。まず取り組むべきは、経営層の意識を変えられるようなコンテンツを作ることだろうと考えました。今回のイベントはそういった層がCPO協会やイベントに興味を持てることを狙いましたし、実際に参加者の2割が経営層だったことはうれしかったです。

イベントを通じて、
経営層へ届けたかったこと

イベントの中で、その主旨を代弁するような登壇者の言葉はありましたか?

Keynoteセッションで登壇いただいた、ブロックチェーンセキュリティのプロダクトを提供するChainalysis社のCPO、AroraさんがCPOの役割について話してくれたときの「会社のフェーズによってはCPOとCEOは一心同体」という言葉は強く印象に残っています。経営者自身がそのくらいの意識でプロダクトと向かわなくてはならないという、まさにイベントを通して伝えたい内容でした。

これだけの内容のイベントを無料にしたのはなぜですか?

協会は営利活動ではないと感じてもらうことが大事だと考えたからです。ただ、そうは言っても最低限の活動資金は必要なので、活動内容を知ってもらったうえで寄付やMakuakeでのクラウドファンディングで資金を募っています。まずは多くの方にCPO協会の考え方やクオリティに触れてもらうのがいいだろうと早い段階で無料での開催は決まりました。

名だたるゲスト陣が登壇しています。どうやって彼らを呼んだのでしょうか?

Kenさんの人望、人脈によるところが大きいです。ServiceNowのゼネラルマネジャーを務めるMarcus氏については、同社の日本支社の方から驚かれました。「どうやってアサインしたんですか?」と。これもKenさんとのいい関係性があったことに加え、協会でやりたいことや理念をくみ取ってくれて実現したのだと思っています。

もう2回目に向けて動いているのでしょうか?

はい。今回は、クラウドファンディングで応援購入をしてくれた方に企画段階で関わってもらいと思っています。購入してくれた方には、CPO協会の定例会で次回のイベントのテーマについて話し合った議事録も共有しながら、どの方向性にしてくのか、一緒に決めていきたいです。

協会として今後どのようなことをやっていきたいですか?

今は、私たちが海外の情報を集めて国内に発信していますが、今後、アジアを市場としているグローバル企業が、日本やアジアのプロダクトを知りたかったらCPO協会に聞いてみようという状態を作りたいですね。相手から話す機会を求めにくるようなポジションを築いて、グローバルと対等に話ができる存在感になれたらと思っています。

21年6月「UXリサーチセンター」発足

ご自身のSansanでの取り組みについても教えてください。

新しい取り組みとしては、21年6月に「UXリサーチセンター」という組織を発足しました。

発足の経緯は?

Kenさんとプロダクトについてさまざまな話をする中で、私に足りないものが見えてきたんです。それがリサーチでした。海外では、リサーチャーは、キャリアとしても人気で、かつ、人が少なく人材の取り合いが起きているようなフェーズにあります。それをSansanでも強化したいと思いました。

具体的にはどのようなことをしているのですか?

SansanのUXリサーチでは、顧客の直面している状況で、プロダクトがどう使われているのかその体験を具体的なレポートにしています。レポートとは、ログ解析と定性的なインタビューの結果を突き合わせたもので、そのレポートをプロダクトマネジャーに共有しています。

「UXリサーチセンター」にはどれくらいの人が?

10人ほどの組織です。まだ正式に稼働して2カ月ほどですが、すでに数十のプロジェクトが走っていて、半分以上は完了しています。各プロダクトからこういうリサーチが欲しいという需要も多くあるので、手応えも感じています。

発足までの過程はスムーズでしたか?

経営陣に対して、説得に時間をかけなければならなかったということは全くありません。こういう話は、経営陣がプロダクトに興味を持っていないと通りにくいと思いますが、Sansanの経営陣はプロダクトという切り口に非常にアテンションが高いのだと思います。
「UXリサーチセンター」以外にもプロダクトマネジャーを集めて、プロダクトがどうあるべきか、何を重要視して、どういった価値観で動くべきかといった目線合わせや、同じようにUXデザイナーを集めた会議体も行いました。これもKenさんと話す中で、組織が大きくなるにつれて必要なことだと考え動きました。
他にも、プロダクトマネジャーが顧客に対して、プロダクトを切り口に未来を見せるプログラムを提供することも構想しています。

CPO協会の発足がSansanにも影響を与えていますね。今後についても教えてください。

私がメインで担当しているいくつかのプロダクトを進化、成長させて、事業にインパクトの出るようなケースをつくりたいです。経営陣は損益と日々向き合っているわけですが、そこに対して成果を出すことがプロダクトが持つ、影響力の大きさの証明になりますから。
私がCPOになって3年たちますが、そこまでの結果はまだ示せたという手応えがありません。プロダクトの形を整え適切に保つといったバランサーとしての役割は果たせているのかもしれませんが、今後は経営に強く影響を及ぼせるサクセスケースを出したいです。

プロダクトに向き合い、同時に成果を出すことにもこだわっていくということですね。

自分の信じていることを裏づけするためでもあります。私は、ビジネスの手段としてプロダクトがあるという考えではなく、プロダクトを進化させたら結果的にビジネスがうまく行くと考えるタイプの人間です。もちろん、どちらかに極端に寄る必要はありませんし、全員が私のような考えではバランスが崩れてしまいますから、ビジネスをセンターに見て動く人間も必要です。
ただ、私のような考えの人間が成果を出せることを示していかないと、今後同じタイプの人間が活躍する場を増やしていくことができません。これは自分の義務だと思って、取り組んでいきます。

Sansanのエンジニア情報サイト「Sansan Engineering」

Sansan Engineering」ではSansanエンジニアが実現しようとしているMission、信念といった軸とも言えるメッセージから、それを実現するためのプロダクト、技術、チーム、そしてエンジニアたちの熱い想い、技術スタック、働く環境といった具体的な内容まで幅広くご紹介しています。Sansanのエンジニアに興味をもった方は、ぜひチェックしてください。

text&photo: mimi