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名刺アプリから、ビジネスのプラットフォームへ━Eightが描く「名刺のない世界」とは?

今年で誕生から 8 周年を迎えた名刺アプリ「Eight」。立ち上げ以来、事業戦略を指揮してきた塩見賢治が考える、Eightの現在の到達点とこれから描く未来の姿とは?

プロフィール

塩見賢治
取締役/Eight事業部事業部長

株式会社物産システムインテグレーション(現・三井情報株式会社)で、大手携帯キャリア向けのメールシステムの設計・開発責任者などを務めた後、2007年にSansan株式会社を共同創業。現在は、名刺アプリ「Eight」の事業責任者として事業戦略を指揮する。


「日本のビジネスで世界を変えたい、Eightはそんな思いから始まりました。その実現のために、まずはビジネスパーソン一人ひとりをエンパワーメントしたいと思ったんです」

名刺アプリEightの事業責任者、塩見賢治はこう語る。

「もちろん、私たち自身が世界を変えていくんだという意気込みもあります。でも日本のビジネスで世界を変えるなら、その主役は日本で働くすべての個人なのではないか、とも思う。一人ひとりが適切な場で最大限に強みを発揮する、その蓄積が世界を変えるようなイノベーションにつながるのではないかと。だから私たちは、ビジネスパーソン一人ひとりの成功を支えたい。そのために何ができるのかを考えていました」

そこで着目したのが、名刺交換によって構築される個人のつながりだった。ビジネスは、人と人とのつながりで成り立っている。決まった人とだけで仕事をするような予定調和な世界では、ビジネスは発展しにくい。偶発的な出会いにこそ、イノベーションの可能性が眠っている。だから、新たな出会いを生み出し、つながりを上手に活用できる環境さえあれば、働く一人ひとりのビジネスはより深く豊かなものになるのではないか。そうすれば、日本はもっと強くなれる。

実際、塩見自身、名刺交換で築いた人脈を活用できていないことに、もどかしさを感じていた。どうすれば解決できるのかと考える中で生まれたのが、紙の名刺をデータ化し、オンライン上でつながる場を作るというアイデアだった。

当時、ビジネスネットワークの領域では、海外のサービスが入ってきていたが、名刺を起点としてネットワークを構築できるサービスはなかった。だからこそ挑戦する価値があった。そこから今日に至るまで、Eightは名刺を管理するだけでなく、ビジネスの新しい出会いをつくるためのサービスとして、8年間、突き進んできた。

2020年、ビジネスの世界は目まぐるしく変化し、オンライン化が急速に進んでいる。そして誕生から8年経ったいま、Eightもまた、変わろうとしている。いったいどんな世界をつくろうとしているのか。塩見が描く未来を語る。


出会いの瞬間を、もっと豊かにする

私たちはずっと「名刺のない世界」を目指しています。「名刺アプリが、名刺のない世界を目指す」と言うと、矛盾しているように聞こえるかもしれないのですが、決して名刺自体を排除したいわけではありません。名刺を進化させたいのです。


Eightを立ち上げた当初から、名刺交換はそのうち何らかのデバイスを活用して行うようになるだろうと思っていました。しかし、紙の名刺は思った以上に手強くて、8年経ったいまでも当たり前に存在している。紙って便利な媒体なんですよね。手軽に持ち歩けて、ビジネスとして必要十分な情報が載っていて、誰に渡しても違和感がない。

でも紙の名刺は、その時点の情報しか載せられません。もし紙の名刺をデジタルに置き換えられたら、名刺には載せきれない情報を付加できたり、名刺交換以外のシーンでも個人ID として活用できる。例えば過去の仕事やスキルなども可視化できれば、出会いの瞬間はもっと豊かになるかもしれない。私たちが目指しているのは、こうした奥行きのある、いわば個人のビジネスIDのようなものが当たり前に活用される世界。それが「名刺のない世界」です。


でも現時点の到達度は、登山で言えば二合目ぐらい(笑)。紙の名刺から完全に脱却するのは、とても難しいのです。ただ、事業を進めていく中でいつも面白いなと思うのは、頂上を目指して登れば登るほど、いい回り道ができること。ビジネスパーソンが抱える課題の中には、出会いを生み出すことで、解決に近づけることはたくさんある。だから、やりたいことも増えていくのです。

名刺ではなく個人のビジネスIDが当たり前に使われる世界では、タクシーに乗るのも、ホテルにチェックインするのも、イベントに参加するのも、そのIDひとつで完結すると塩見は言う。


アナログとデジタルの交差が
進化につながる


ここ最近、オンライン化が急速に進んでいます。初対面がオンラインということも当たり前になってきているからこそ、これからは、オンライン上の出会いもより大切にしていかなければいけない。そこで価値を発揮するのが「オンライン名刺」です。

名刺をデジタル化することで、直接会わなくても名刺交換ができ、相手の情報を知ることができる。過去のビジネスログなど、紙の名刺以上の情報も付加できる。ネットワークもつくりやすくなるので、より一層ビジネスが広がっていく。

もちろん、日本の文化に根付いた紙の名刺を、いきなり全てなくすことはできません。アナログからデジタルへの過渡期であるいま、大切なのは紙の名刺とオンライン名刺を共存させながら、徐々にオンライン名刺が活用される幅を広げていくこと。これは、前で述べたような「名刺のない世界」をつくる入り口なのだと思っています。

一方で、すべてをデジタル化すれば良いという話ではないとも思います。オフラインにはオフラインでしか得られない出会いの価値がある。フィジカルな情報や、偶発的な出会いは、いまはまだオフラインでないと得られません。ですから、名刺のデジタル化は進めています が、Eightから生まれるサービスをすべてデジタル化するということは今後もないでしょう。アナログとデジタルの良いところを取り入れて、さらに進化する。それが、いまEightが取り組むべきことです。

ビジネスパーソン一人ひとりの
成功に寄り添う


Eightに追加される機能も、良い出会いにつながるものであることが大前提です。例えば、2020年5月、Eightは自分の過去のビジネスログ(過去の自分の名刺)から推測されるスキルをタグにして蓄積できるようになりました。

この機能をリリースした背景には「自分の強みを正しい場所で活かせていない人が多い」という日本社会の課題があります。一生懸命働いてきたけれど、自分は何が得意なのかがよくわからないという人が多いのです。だから、本当にマッチする仕事と出会えず、力を最大限に発揮できない。それはとてももったいないし、ビジネスも発展しにくい。

スキルタグの機能は、その課題を解決する糸口になると考えました。自分がこれまで積み重ねてきたスキルを認識でき、また、つながっている相手に自分の強みを知ってもらうこともできる。仕事の機会を広げやすくなり、転職や副業などでも、よりマッチする会社と出会えるかもしれません。

また、Eightが提供する企業向けの採用サービス「Eight Career Design」は、企業がEightのユーザーにダイレクトスカウトを送ることができるサービスです。このサービスもまた、人と仕事の出会いを後押しするために誕生しました。企業の採用を支えることはもちろん、ユーザーがビジネスチャンスに対して向き合う機会もつくることができる。すでにいま、少しずつではありますが、人と仕事の良い出会いが生まれています。

「Eight Career Design」は、Eightの持つ国内最大級のビジネスネットワークを活用し、270万人の転職潜在層にダイレクトリクルーティングが可能になる採用サービス。ユーザーは、過去の名刺からスキルを判別、タグとして付与される。そのスキルを見た企業からダイレクトにスカウトが送られてくる仕組みだ。

新しい「出会い」の形をつくっていく




私たちはこれから、ユーザー一人ひとりが、出会うべき人や企業に出会えることをもっとサポートしていきたいと思っています。

例えば、どこが知らない土地を訪れるときに、人づてで「この人に会うといい」と勧められた経験はありませんか。将来的にはそれをEightで再現したいんです。ユーザーの最近の仕事や触れ合ってる人から類推し、正当な理由をつけて出会うべき人をレコメンドする。新たなイノベーションを生み出すタネにもなると思います。

もしかしたら、いまでもすでにあるのかもしれません。「Eightで知り合うことができました」という出会いが。それがいま、年間で500人ぐらいなら、これから1万人、100万人と増えていくのが理想です。

Eightの価値として「Eightの名刺管理機能は正確」「ビジネスの役に立った」と思ってもらえるサービスであることは、これからも変わらず目指していきます。それに加えて、ユーザーの、学生時代から始まり引退するまでのビジネス人生を支え続けたい。その要所要所で良い出会いを生み出し、働くシーンをより豊かにする。そんなビジネスのプラットフォームになることを、私たちは目指しています。全てのビジネスパーソンが、世界を変える主役になれるように。 初出:BNL(2022.8.7)