2022年、Sansan株式会社はグローバル視点でのプロダクト開発を行うべく、Sansan Global Development Center, Inc.(以下、SGDC)を開設しました。その後、急速にメンバーが増加する中で会社の方向性を明確にするため、2024年には独自のミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)の策定に着手しました。「全員で考え、決める」というSansanのカルチャーを踏襲し、実施されたMVV議論。SGDCでマネジャーを担うペガリド ジェイと、SansanのCCO(Chief Communication Officer)としてMVV策定に関わる室健に、そのプロセスや議論の様子について聞きました。
PROFILE
室 健Takeshi Muro
執行役員/CCO (Chief Communication Officer)
2003年広告会社に新卒入社。コーポレートコミュニケーション局で企業のPR戦略を立案。ミシガン大学MBA修了し、その後、海外事業統括局でエージェンシーのM&Aに従事。その後、クリエイティブコンサルティング局で局長代理兼グローバルクリエイティブディレクターとして日系企業・グローバル企業のキャンペーンを設計。2022年4月、経営視点でのコミュニケーション戦略立案にチャレンジすべくSansanに入社。現在はChief Communication Officerとして社内外のコミュニケーション活動を統括。
ペガリド ジェイJay Pegarido
Sansan Global Development Center Director
フィリピン出身。サンカルロス大学でコンピューターエンジニアリングを学んだ後、ヤマトシステム開発に入社し、日本での勤務を経て日本語を習得。その後、ニュースキンを経てスプラシア日本法人で経験を積み、スプラシアフィリピンの立ち上げに携わる。転職後のインターナショナルシステムリサーチでは、フィリピンに開発拠点を立ち上げた。2023年、Sansanのグローバル開発センター「Sansan Global Development Center, Inc.」の設立を支援し、そのままCountry Directorとして参画。現在は、フィリピンのIT業界での成長と、Sansanのグローバル展開を牽引する。
フィリピンの企業では珍しい
「全員で考える」機会
SGDCでMVVの議論を行った背景を教えてください。
室:Sansanは、MVVなどの理念を「Sansanのカタチ」と呼び、全員が働く中で常に意識しています。また、全社員がSansanのカタチについて意見を出し合う機会を定期的に設けています。これを社内では「カタチ議論」と呼び、創業以来何度も議論を繰り返し、組織や事業のフェーズに合わせてMVVを更新してきました。
お互いの思いを理解し、それぞれの意見から共通のエッセンスを見つけ、進むべき方向を明確にするプロセスは、Sansanのグループ会社でも実施しています。SGDCは今後さらに成長していくために、全員が同じ考えや目標を持つことが大切だと考え、今回のタイミングでMVV議論を行うことにしました。
フィリピンのIT企業では、このような取り組みはあるのでしょうか?
ジェイ:フィリピンではMVVにあまり重点が置かれておらず、ミッションやビジョンがあるIT企業でも、従業員にそれらの深い理解を促すような議論までは行っていません。Sansanのように、多くの従業員がMVVを決める議論に参加し、ステートメントの策定に関わることはフィリピンの企業としては非常に珍しいことです。
この会社で働く中でも
ハイライトになる経験になった
MVV策定はどのような流れで行うのですか。
室:企業によってアプローチはさまざまです。私は前職でブランディングワークショップを多く行ってきましたが、幹部だけで行う会社もあれば、社長がトップダウンで決める会社もありました。Sansanは「全員で考える」というボトムアップの思いが強いところがユニークな部分です。
SGDCでまず行ったのは、SGDCが生み出す価値について参加者全員で話し合うことです。世界的に有名な企業の例を紹介しながら、「SGDCはどのような技術を使い、どのようなサービスを開発する集団なのか?」「それによってSansanの社員やその先にいるユーザーがどのように便利になるのか?」といったことを考えていきます。「自分たちが提供できる価値を規定する」のが第一ステップです。
次に、ブランドパーソナリティーについて議論しました。具体的には「この会社(ブランド)を人に例えるとどんな人物といえるか?」と想像して言語化します。その後、3年後や5年後のビジョンを決め、それを達成するためにすべきこととしてのミッションを議論していきました。
約30名を5グループに分け、各チームで議論して全体に発表という流れを繰り返し、その中から共通部分を抽出。その後、全員で細かな言葉のニュアンスまでこだわって調整し、ほぼ1日をかけてステートメントをまとめていきました。
MVV策定のプロセスで特に重視した点は何でしょうか?
室:最も重要なのは議論が盛り上がることです。チームごとに盛り上がりの度合いが異なったり、議論が別のベクトルに進んだりすることもあるので、注意が必要です。私自身はファシリテーターとして各グループを回り、「この点はどう思いますか?」「ここに書いてあるこれはどういう意味ですか?」などと問いかけ、議論を活発にすることを意識しました。
もう一つ、重要なのはタイムキーピングです。この種の議論は時間が足りなくなることも多いので、5分前に残り時間を伝えるなどの計画性は必須です。一方で、大切な議論や細かな言葉の調整に関しては、多少時間が延びてもしっかりと行う必要があります。
SGDCの場合、「Digitization」か「Digitalization」か、「Deliver」か「Bring」か、などそれぞれの単語に対して個人のこだわりもありました。それらを調整し、全員が納得できる言葉に落とし込むことを大切にしました。
議論の中で特に印象に残ったことは何でしたか?
ジェイ:このような機会はメンバー全員にとって初めてだったので、はじめは皆「何を話し合うのだろう」と不安な様子でした。前半はグループによっては静かになる場面もあったため、私と室さんでグループを回ってフォローしていましたが、徐々に活発に意見が出るようになりました。最後に全員で行った議論は非常に盛り上がり、熱意にあふれていました。
その中で「ITのグローバルリーダーになる」「DXを推進する」「フィリピンでNo.1のIT企業になる」といったフレーズを聞き、私はSGDCの未来に期待感が高まりました。参加者全員にとって、このワークショップはSGDCで働く中でハイライトとなる経験になったと感じます。
自分たちの想いや行動が
会社の未来をかたちづくる
実際にどのようなMVVになったのですか。
室:ビジョンは「Become Sansan’s global innovation hub(Sansanのグローバルイノベーションのハブになる)」に決まりました。ミッションはSansanと同様「出会いからイノベーションを生み出す」ですが、そのサブステートメントとして「To develop advanced solutions for Sansan’s global market(Sansanのグローバル進出のために先進的なソリューションを生み出す)」と定めました。
ジェイ:議論の中で、「Sansan本社とビジョンやミッションを揃えた方がいいのではないか」という意見もありました。しかし最終的にはSansanとしてのSGDCの位置づけも踏まえて、ビジョンは独自のものにし、ミッションのサブステートメントを追加しています。最後まで全員で納得するまで議論を続けました。
全メンバーが参加することで得られた成果や学びはありましたか?
ジェイ:フィリピン人は明るい性格の人が多く、普段の会話でもにぎやかになりがちですが、今回は真剣な事柄への話し合いだったにもかかわらず、全メンバーが活発にアイデアを出し合うことができました。会社一丸で取り組んでいる印象を持つことができてよかったです。
ワークショップによって、メンバーは個人の目標と会社のMVVを重ねて考えることができたと思います。自分たちの意見が受け入れられ、会社の価値として反映されていくことで、「自分たちの想いや行動が会社の未来をかたちづくる」と実感できたのではないでしょうか。
実際に参加したメンバーは、会社における重要なプロセスに関わることができたことを心から感謝していました。ワークショップ前後で、明らかにエンゲージメントとモチベーションが高まったことを感じるので、このような機会を今後も大切にしたいと思います。
室:この日はMVVについて話し合いましたが、後日、マネジャー以上を対象に、みんなで決めたMVVを活用した採用施策を考える機会がありました。そこで気づいたのは、このとき決まったMVVの中に、「フィリピンにある日系企業のグループ会社」を超えたグローバルな想いやパッションが反映されていたことです。
多くの場合、フィリピンのグループ会社は日本本社で行われている業務の一部を受託するだけになりがちですが、Sansanでは少し異なります。SGDCは「Global Development Center」という名前で、「グローバルイノベーションのハブになる」というビジョンを掲げています。つまり、Sansan本社の“パートナー”として、ともにグローバルなプロダクトを開発していくという位置づけなのです。採用施策の議論の中でも、そんな情熱が伝わってくるのを感じましたね。
自分たちの存在意義を確認し
より一体感が高まった
MVV議論の後にメンバーに変化はありましたか?
ジェイ:議論前と比較し団結力が非常に高まったと思います。フィリピンにはもともと家族のような関係性の中で働くことを重視する文化がありますが、今回の議論を通じて、よりメンバーの信頼関係が強まったと感じています。会社と個人のつながりだけでなく、メンバー同士の関係性も深まり、一体感が生まれました。
この変化を目の当たりにして、私は「全員を巻き込んで会社の価値や未来について話し合うこと」の意義を再認識できました。メンバーのあふれる熱量が、これからどのように会社を成長させていくのか楽しみです。
ほかに、MVV策定のプロセスを通じて得られた気づきがあれば教えてください。
ジェイ:会社のミッションと個人的なミッションが一致していることに気づきました。私はこれまで日本企業で働く中で、「フィリピンの人たちが海外の企業で働くための手助けをしたい」という気持ちが高まっていましたが、その目標と、SGDCの目標を重ね合わせることができました。
今後SGDCはどのような会社へと成長していきますか?
ジェイ:「Become Sansan’s global innovation hub」というビジョンの実現に向けた活動を主軸に置いていきます。「Sansan」 「Bill One」などSansanのソリューションをそのままグローバルに展開するだけでなく、それらをさらに進化させた先進的なソリューションをグローバル市場に向けて提供していく必要があります。私はSGDCのメンバーをとても誇りに思いますし、これからの道のりに大きな可能性を感じると同時に今後の成長も期待しています。