Sansan株式会社は、創業当初から企業理念「Sansanのカタチ」を事業活動の基本に据え、これまでさまざまなDXサービスを展開し続けてきました。このような企業理念に基づく事業推進のアプローチは、現在、Sansan社内にとどまらず、グループ企業にも広がりを見せています。株式会社言語理解研究所(ILU)やログミー株式会社、セブ島の開発拠点Sansan Global Development Center, Inc.など、各社はそれぞれの企業理念を軸に事業を進めており、その手法が共通の方向性としてグループ全体に浸透しています。今回はCHRO(Chief Human Resources Officerの略。最高人事責任者)として採用や組織開発を牽引している大間祐太に、Sansanが貫く「ミッションドリブンな組織づくり」や、全社員で議論を重ねアップデートし続けている「Sansanのカタチ」、グループ企業へのカルチャーの浸透やそれによる変化について聞きました。
PROFILE
大間 祐太Yuta Ohma
取締役/執行役員/CHRO(Chief Human Resources Officer)
人材系企業で採用コンサルティング事業の立ち上げを経験し、その後独立。取締役として採用領域のベンチャー企業立ち上げに携わる。2010年にSansan株式会社へ入社し、営業部門のマネジャー、人事部長を務める。現在はCHROとして、人材価値を高めるための人事戦略を指揮する。
Sansanが何のために存在し、どこを目指しているのか
まずは、「Sansanのカタチ」について教えてください。
Sansanでは、ミッション・ビジョン・バリューズなどの企業理念を総称して「Sansanのカタチ」と呼んでいます。これは、会社としてどこを目指し、どんな価値を大切にしているのかを言葉にしたものです。
ミッションを掲げることは、Sansanにとってどんな意味があるのでしょうか?
私たちにとってのミッションは、Sansanという会社が何のために存在し、どこを目指しているのかを示すものです。私たちは「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを、進むべき方向を示す指針としてとても大切にしています。
単に言葉を掲げるだけではなく、営業DXサービス「Sansan」をはじめとする当社のさまざまなサービスは、すべてこのミッションに基づき開発されています。私たちはそのサービス一つひとつを「ミッションを実現するための手段」と捉え、ビジネスにおける出会いをどう革新し、新たな価値を生み出すかを追求し続けているのです。ミッションを掲げることは、私たちが新たな価値を生み出すための原動力だと言えます。
当社コーポレートサイトで紹介しているSansanのミッション。出会いの力で未来を変えるという意思が込められている。
社内では、どのようにミッションを浸透させているのでしょう?
いくつかあります。毎月2回開催している全社員が参加する会議では、ミッションやビジョン、バリューズをテーマに、代表の寺田や経営陣、部長陣が自分の言葉でスピーチをしたり、全社員で「Sansanのカタチ」を読み上げたりします。
また、日々の業務の中においても、「この施策はミッション実現にどう貢献するか?」といった問いを常に意識し、仕事の本質に立ち返る習慣を大切にしています。そうすることで一人ひとりが「何を目指し、どう社会に貢献するのか」を見つめ直し、組織としての成長を促すのです。
アップデートし続ける企業理念「Sansanのカタチ」
なぜ「Sansanのカタチ」は定期的にアップデートされているのでしょうか? そのプロセスの中で、うまくいかなかった経験もあれば教えてください。
創業当初は社員数も少なく、Sansanのカタチは自然と共有されていましたが、組織が拡大するにつれて、「自分たちは今、何を目指し、どこまで実現できているのか」を立ち返る必要性が高まりました。
そうした課題意識から取り組んでいるのが、創業時から実施していた全社員参加型の「カタチ議論」です。職種や年次をシャッフルしたチームで繰り返し議論を重ね、最終的なアウトプットを経営陣がまとめ上げるというこのプロセスには、これまで累計18,000時間以上もの時間が費やされてきました。それだけの時間と労力をかけてでも、「自分たちのあり方」を再定義することに、私たちは本気で向き合ってきました。
チームで導き出した結論を、全社員の前で自らの言葉で伝えている様子
例えば、組織拡大する中で、できる限り社員全員にオーナーシップを持ってもらうことを意図して、「自分事にする」という言葉をバリューズに加えるべきなのでは、という議論もありました。これも全社員で議論した結果、一度β版としてバリューズに加える判断をしましたが、最終的には、その他のバリューズを体現している社員は結果オーナーシップを持ち、会社としてのアクションを自分事にできているのではないかということで、β版で追加した「自分事にする」というバリューズを削除することになった過去もあります。
また、「逃げずにやりきる」という言葉も、かつてはバリューズの一つでしたが、事業が成長し、新規事業や海外展開が本格化する中で、社内から「時には意思を持った撤退も必要ではないか」という声が上がりました。全てをやりきることが正解ではなく、時に意思と意図を持って撤退するという判断も必要だという理由からです。この言葉がバリューズにあることで、その判断がしづらくなる懸念があり、事業スピードを遅らせる原因にもなり得ます。
議論を重ねた結果、この言葉はバリューズから外す決断がされました。こうした細かな微修正や柔軟な見直しができるのも、社員全員が理念に向き合っているからこそだと思います。
このように、「Sansanのカタチ」は一度定めたら終わりではなく、組織の変化とともにアップデートを繰り返してきました。理念を掲げるだけでなく、どう体現するかを全員で問い直し続ける。この営みそのものが、Sansanらしいカルチャーの根幹だと感じています。
これまで「カタチ議論」からはどのようなアウトプットが生まれたのでしょうか?
いくつもありますが、大きいところでは、ミッションの見直しがあります。実は創業当初からミッションを少しずつアップデートしています。一つ前のミッションは「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」でした。「ビジネスの出会いを資産に変え」はつまるところ、名刺という出会いを、価値あるデータベースに変えていくということ。「働き方を革新する」は、ユーザーの働き方そのものをアップデートするという意味合いを持っていました。
しかし2018年、グローバル展開やサービス領域の拡大にともない、課題に直面していました。これまで目指していた「働き方の革新」だけではなく、「出会いがイノベーションを生み出す源泉になる」という考え方を、社内外に対してより明確に示す必要性が高まったのです。そこで「出会いからイノベーションを生み出す」という「人と人とのつながりが、新たな価値を創出し、社会を動かす力になる」という考えを示す表現にアップデートしました。
「ミッションドリブンな組織」が
Sansanの成長を加速させた
「ミッションドリブンな組織づくり」は、Sansanの成長にどんな影響を与えましたか?
社員数が急激に増える中でも、ミッションがあることで組織としての統一感が保たれていると感じます。
「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションがあることで、「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」「今の意思決定はその実現にどうつながっているのか」といった軸を持てるようになります。組織が大きくなっても迷わず進むための羅針盤のような存在ですね。
私自身、入社前は外部から採用支援をする人材系企業の立場としてSansanを見ていて、「なぜ社員全員がそこまで名刺管理サービスを信じて戦えるんだろう」と疑問に思ったことがあります。しかし、社員は「ビジネスの出会いのあり方を変えれば、ビジネスシーンは変わる」という意義を本気で信じていました。実際、営業DXサービス「Sansan」や名刺アプリ「Eight」といったサービスは名刺管理の枠を超えて営業プロセスや個人のビジネスネットワークを拡張し、さらにインボイス管理サービス「Bill One」やAI契約データベース「Contract One」といった企業同士のつながりや関係値を示すような新たな領域へも広がっています。
これほど幅広く事業を展開していても、コアとなるミッションが浸透していることで「展開している事業がミッション実現にどう関与するのか」という事業運営の目的がぶれないというのは当社の強みだと思います。
社内カルチャーの醸成や、採用面への影響はどうでしょう?
「ミッションを実現して世界を変えるために、自分は何に挑戦するのか」を考える文化が社内に根づいたことで、「世界のビジネスを変えたい」という想いを持った人たちが自然と集まりやすくなりました。採用の場面でも、「Sansanのミッションに共感したから入社したい」と言ってくれる方が増えていて、ミッションを軸にした採用ブランディングの効果を感じています。
左: 中途採用サイトのトップページ。「出会い」の可能性を軸に、Sansanが描く世界観を伝える。右: 新卒採用サイトより。個の挑戦が集まり、世界を変える力となることを、象徴的に表現している。
Sansanグループ全体でミッション実現を目指す
ミッションをグループ企業にも展開していると聞きましたが、具体的にはどんなことをされているんですか?
はい。ログミー株式会社は「情報共有のDX」に取り組む企業で、イベントや説明会、インタビューなど、さまざまな場所で生まれる情報をそのまま記録し、正しい意図を持ってビジネスパーソンに届けるプロダクトを構築しています。「世界をログする。世界を変える。」というビジョンのもと、ログ(記録)を通じて社会の新たな可能性を引き出そうとしているんです。
一方、ILUは「日本語DX」を推進する企業で、言葉が持つ力を最大限に引き出すため、AIと人間のスキルを掛け合わせてビジネスを加速させる取り組みを行っています。例えば独自の自然言語処理技術を活用し、顧客の想像を超える価値を提供し続けることで、新たな市場やサービスを切り開くことを目指しています。どちらの企業も事業の本質において「人や情報をどう出会わせ、革新をもたらすか」という考えが共通しています。
また、Sansanが蓄積してきた「ミッションドリブンな組織づくり」のノウハウをグループに展開し、各社が独自のミッションを策定するサポートもしています。ILUではロゴやコーポレートサイトを変更し、社員が積極的に技術発信を行うなど、社内の雰囲気が明らかに変化していると聞いています。
グループ全体として、今後ミッションドリブンな組織をどう進化させたいですか?
社員一人ひとりがSansanやグループ会社のミッションに自分のキャリアや想いを重ね、おもいきり挑戦できる環境であり続けたいです。ミッションと組織の変化に合わせて「Sansanのカタチ」を柔軟にアップデートし、そのアップデートがまた社員の成長を後押しする。そんな好循環をグループ全体で作っていきたいと思います。