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AIと協働する開発組織、そして技術の深化。Sansan 新CTO笹川が語るビジョン

Sansan株式会社は、社員一人ひとりがAIを武器として活用できる状態を目指す「AIファースト」を、2025年の全社方針として掲げています。加えて、各プロダクトでも既存の延長線上にとどまらない、非連続な進化を目指しており、技術や組織のあり方も大きく変化しているフェーズです。

そんな転換点とも言えるタイミングで、2025年6月に執行役員/CTO(Chief Technology Officerの略。最高技術責任者)に就任した笹川裕人。今後、どのような技術組織を目指しているのか。そして、笹川が考える「Sansanのエンジニアに必要な要素」とは。そのビジョンや思いについて聞きました。

 

PROFILE

笹川 裕人Hirohito Sasakawa
執行役員/CTO/Sansan Engineering Unit/研究開発部/Platform Engineering Unit 部長

大学院でコンピューターサイエンスの博士号を取得後、株式会社リクルートを経て、2018年にエムスリー株式会社へ入社。AI・機械学習チーム、SREチームなど複数のチームを自ら手を動かしながらリードする。2023年4月にSansan株式会社へ入社し、Sansan Engineering Unit部長、研究開発部部長、Platform Engineering Unit部長を歴任。2025年6月にCTO就任。現在は全社の技術戦略を担い、技術基盤と開発組織の進化を推進している。


技術力の底上げと「芯」の通った技術選定

まずは、CTOとして目指す開発組織のビジョンから聞かせてください。Sansanの技術組織に必要だと感じている変化や、強化すべき点はありますか?

基本的には、既存の開発組織を破壊的に変えるのではなく、これまでの取り組みをベースにしつつ、全体の底上げをしていくイメージを持っています。Sansanの開発組織は、これまでもかなり先進的な取り組みをしてきましたし、その成果も出ています。ただ、ここで言う「底上げ」は、じわじわと少しずつ進めていくというより、大幅に技術レベルを引き上げることを狙っています。

例を挙げると、Sansanの各プロダクトの裏側には、アナログデータをデジタル化する仕組みがあります。名刺や契約書などの画像から、OCRエンジンやオペレーターの手作業によって文字情報を取り出し、デジタルで活用可能にしてきました。

この工程は、LLM(大規模言語モデル)を取り入れることで、さらに自動化を進めることができます。そのためには「LLMに最適化されたシステム設計とは何か」を考え、既存の仕組みを大きく変えていく必要があります。

技術と向き合う上で、一貫して大事にしていることはありますか?

その技術の根本的な仕組みを、正しく理解することです。単に「ドキュメントを読んでツールの使い方を把握した」というレベルではなく、「どのような設計思想でそのツールが生まれ、裏側はどのような仕組みになっているのか」まで踏み込んで理解するように心がけています。

Sansanの各プロダクトは、日本国内のSaaSの中でも有数のユーザー数を誇ります。これほどの規模になると、難易度の高い技術課題に直面することも多く、時には「世界中の企業の中で、Sansanが初めてその問題に遭遇した」というケースすらあるかもしれません。そうした問題を解決するには、技術の根本を理解する姿勢がとても重要だと考えています。

技術選定やアーキテクチャ構築において、大事にしている軸はありますか?

「何の目的を達成するためにその技術を使うのか」という視点を大切にしています。だからこそ、開発組織のメンバーには「どんな理由でこの技術を選んだのか」という決定経緯について聞くようにしています。

最近のSansanの事例で特に印象に残っているのが、AI契約データベース「Contract One」の取り組みです。Contract Oneでは「契約書の検索」が重要な機能の一つですが、プロダクトの初期フェーズでは、リレーショナルデータベースのみで検索処理をまかなっていました。

エンジニアはどうしても、「将来的にこうなりそうだから」「柔軟性を持たせたいから」といった理由で、つい複雑なアーキテクチャを組みたくなるものです。しかし、プロダクトの初期フェーズにおいて必要以上にプロダクトの複雑度を増してしまうと、かえって運用や保守が煩雑になり、チーム全体の負荷が増してしまいます。

Contract Oneでは、ユーザー数が増え、リレーショナルデータベースでは高度な検索機能に対応しきれなくなったタイミングで、初めて「Elasticsearch」を導入し、アーキテクチャを変更する判断をしました。必要に応じてアーキテクチャを進化させていく、芯の通った技術選定ができたと感じています。

強い開発組織を目指すために必要な3つの要素

先日公開された就任インタビューでは、世界を変えるプロダクトを目指すために組織に必要な要素として、「圧倒的な技術力」「圧倒的なチームワーク」「既存を疑い変える力」を挙げていました。これらの要素について、あらためて教えてください。

まず「圧倒的な技術力」ですが、プロダクト開発においてエンジニアの技術力は高いに越したことはありません。特に、私たちが扱うプロダクトはデータ量も多く、他社で前例のないトラブルに遭遇することもあります。そうした場面では、相応のスキルが必要になります。こうした高難度な課題と向き合える環境が、私がSansanで働く理由の一つでもあります。

仮に、技術的な課題の難易度とエンジニアのスキルを、それぞれ1から10までの数字で表すとします。技術力が10のエンジニアは、難易度10の課題を解くことができますが、技術力が9以下のエンジニアしかいなければ、何人集まってもその課題は解けません。だからこそ、個々のエンジニアがスキルを磨き続けることが重要です。

次に「圧倒的なチームワーク」です。どれほどスキルの高いエンジニアでも、必ず得意・不得意はありますし、誰かと議論や相談をしたい場面もあるはずです。さらに、人が成長するためには、他の人と一緒に働きながら考え方やスキルを吸収できる環境が必要です。規模の大きなプロジェクトを成功させるためにも、チームで動くことが不可欠です。

しかし、組織の人数が増えると、それに比例して関係者も増え、コミュニケーションや合意形成にかかるコストも上がっていきます。その課題を解決するには、ハイスキルな人たちが自律的に協調して動けるようなチームワークが欠かせません。

最後に「既存を疑い変える力」についてですが、人はどうしても現状を維持しながら働こうとするバイアスがかかります。常に「あの時代に作ったこのルールは、今も本当に必要なのか?」「これ以外のプランの方が良い可能性はないか?」という視点を持ち続けないと、組織もプロダクトも停滞してしまいます。だからこそ、物事を批判的に見つめ、不必要だと判断したものは変えていく姿勢が重要だと考えています。

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AI全盛の時代だからこそ、
「データ」の価値がより大きくなる

Sansanが掲げる「AIファースト」の全社方針を、開発組織ではどのように取り入れていますか?

オーソドックスですが、DevinやCursorなど開発支援系のAIツールを積極的に導入しています。直近では、長期契約は避け、短期契約で試している段階です。まだツールのデファクトスタンダードが定まっていないことや、AIの進化スピードが速く、先週と今週で状況が大きく変わることもあるためです。チームごとに、自分たちの判断で適したツールを導入してもらっています。

AI系ツールを使っていく中で、エンジニアに求められる力に変化はありますか?

AIは、具体的な指示を出せば正確に動いてくれますが、曖昧な指示ではアウトプットが安定しません。やってほしいことをロジカルに、曖昧さなく伝える力が重要になります。

また、AIが出力した結果が妥当かどうかを見極める力も欠かせません。ハルシネーションが起こることもありますし、品質が今ひとつのアウトプットが返ってくることもあるため、人間によるチェックが不可欠です。さらに、プロダクト開発における「何を作るか」「どう作るか」といった企画工程の判断は、今もなお人間に求められる役割だと考えています。

加えて、最近特に意識しなければならないと感じているのは、AIツールが主に「開発」工程の効率化を担う一方で、その部分だけが速くなってもプロセス全体の改善にはつながらないことです。例えば、要件定義やQAなどの工程がボトルネックとなり、顧客への価値提供のスピードがあまり変わらない、ということも起こりえます。だからこそ、プロセス全体が本当に改善しているのかを計測・評価し、必要に応じて適切な対処を行うことが大切です。

開発組織に、どのようなスキル・マインドを持った人が加わってほしいですか?

Sansanは自社プロダクトを提供する企業なので、プロダクトの価値を育て、ユーザーに貢献することに関心がある方が向いていると思います。また、前例のない難しい課題に取り組むことも多いため、技術の根幹をしっかり理解しているエンジニアが望ましいです。「アルゴリズムなど理論計算機科学に強い」「データベースの低レイヤーに詳しい」など、特定分野に強みがある方は特に歓迎です。

さらに、ユーザーのニーズを的確に捉え、「何を、どう作るべきか」を考えられるプロダクトマネジメントの素養を持つ方も歓迎しています。個々の強みが組み合わさって、強い組織になるのが理想です。

最後に、「今のフェーズのSansanだからこそできること」についてメッセージをお願いします。

Sansanには、名刺や顧客情報など、価値あるデータが大量に蓄積されています。今後、AIの進化に伴って、各社が提供する機能はコモディティ化していきます。その中で、「膨大かつ独自のデータを保有していること」が企業の大きな差別化要素になります。

Sansanは、そうしたデータを収集・整理・活用できている、非常に稀有な企業です。AI全盛の時代だからこそ、データという資産を生かした価値創造が可能になります。今のSansanは、まさに面白いフェーズにあると感じています。

 


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Sansan技術本部では中途・新卒採用向けにカジュアル面談を実施しています。Sansan技術本部での働き方、仕事の魅力について、現役エンジニアの視点からお話します。「実際に働く人の話を直接聞きたい」「どんな人が働いているのかを事前に知っておきたい」とお考えの方は、ぜひエントリーをご検討ください。

 

 

text&photo: mimi