PROFILE
糟谷勇児 Yuji Kasuya
技術本部 研究開発部 Data Analysis Group グループマネジャー
大学時代にインテリジェントユーザーインターフェースの研究に従事。2013年、新卒で大手メーカーに入社。研究開発に携わり、日々研究に明け暮れる。2016年、研究開発を商品化・事業化につなげたいという思いからSansan株式会社に入社。研究員としてリコメンドエンジンや名寄せの仕組みの開発に従事する。2022年からはData Analysis Groupのグループマネジャーとして、メンバーや Sansanの研究開発部のプレゼンスを高める活動も行っている。
商品化・事業化がとても難しい。
前職で直面した、研究開発の越えられない壁
Sansan入社前のキャリアについて教えてください。
私は大学時代にインテリジェントユーザーインターフェースという、AIとユーザーインターフェイスを掛け合わせてものづくりをする研究を行っていました。この研究が好きで得意でもあったので、卒業後も研究を続けるか企業に就職するかで悩みましたが、自分が作ったものを世に出したいという思いが強く、企業に就職することを選びました。
前職でも研究開発を?
はい。ただ、なかなか商品化につなげることが難しくて。私も含めて周りのメンバーでも成功している人はあまりいませんでした。これは企業における技術マネジメント、いわゆるMOT(Management of Technology※)の領域にあると言われる、三つの関門に当てはまります。まず研究で成功しても実用化できない「魔の川」、そして「魔の川」は越えても商品化・事業化に至らない「死の谷」、最後に事業化しても売れず、競合他社に負けてしまう「ダーウィンの海」。特に「死の谷」を越えていくことの困難さを痛感しました。
※企業や組織が持続的に発展するために、新しい技術を効果的に事業に結びつけ、経済的付加価値を創り出すためのマネジメント。技術経営または技術マネジメントと呼ばれる。そこで転職を考えたと。
はい。転職活動中にいろいろな企業の面接を受け、研究開発が商品化に至る確率を聞いたのですが、大企業の回答の多くは「1割程度」でした。一方、Sansanは高い確率で商品化されていました。それがSansanを選んだ理由です。
Sansanの研究開発部なら
「死の谷」を越えられるのではないか
入社して、前職との違いはどんなところにありましたか?
Sansanでは、研究開発の成果がプロダクトにうまくつながっていました。その理由の一つは自分たちでプロダクトまで作り上げる技術と組織があることです。ほかの企業では、研究開発部門がプロトタイプやライブラリーまで作って、その後の実装を他の事業部が担うことが多いのですが、Sansanの研究開発部ではAPIまで一貫して自分たちで開発するので商品化しやすいのです。
加えて、ニーズを見極めるために社内で徹底的にヒアリングをし、本当に必要なものだけを開発するカルチャーが根づいているというのも大きな理由です。もちろん、他の会社でもヒアリング自体はしていると思います。ですが、Sansanは部門間の垣根がかなり低く他部門とのやり取りがしやすい。だからヒアリングの精度も上がるんです。
入社して驚いたのが、私たち研究開発部の活動が社内の多くの人に知られていて、他部門の人からも興味を持ってもらえたことです。これは嬉しかったです。前職では「研究開発の人って何してるの?」と言われていましたから。部門間で発信し合える環境が、お互いをリスペクトし合う関係性を生み出しているのだと思いました。
入社した2016年当時から、会社は成長し、規模も大きくなりました。社員の数も倍以上に増えています。現在のSansanでは「死の谷」に直面することもあるのでは?
いいえ、そんなことはありません。実際に、研究開発したものの7割以上が商品化されているという結果も出ていますから。この状態を今後も継続していくために、今話したようなSansanの研究開発における良い部分はしっかり守っていきたいですね。
研究開発のプレゼンスを高めたい
主催イベントに込めた思い
現在、糟谷さんは研究開発をしながらマネジメントもされていますよね?
はい。2022年にマネジャーになりました。今はマネジメントを優先し、研究開発はできる限りメンバーに任せたいと考えています。
先日行われた、糟谷さんが主催したイベント「TECH SHOWCASE 2023」は、メンバーの研究結果を発表する場でした。このイベントを企画したのもマネジャーとしての視点があったのでしょうか?
そうですね。各メンバーがさまざまなテーマで研究開発を行っているので、それをオープンにすることで Sansanの研究開発のプレゼンスをさらに高めたかったのです。
それともう一つ、「死の谷」をどう乗り越えるのかを示したいという思いがありました。「死の谷」は、研究開発に携わる人の多くが共通して持っている課題であるはずです。だからこの発表が同じ課題に取り組む人々にとってヒントになったら良いなと。
「TECH SHOWCASE」は Sansan本社のイベントスペースで開催
イベントの様子。企業の研究開発に携わる人から学生まで、研究に関わる幅広い層の方に来場いただきました
「TECH SHOWCASE」で紹介した研究のタイトル一覧。初公開となる独自技術2件を含む全11件の研究開発成果と研究開発プロセスを発表
なるほど。今回、研究結果だけでなくプロセスまで見せていたのもその理由から?
はい。ニーズを見極めるためのヒアリングを重視していることなど、プロセスも見せることで、Sansanが「死の谷」をどう越えているのかを示しました。実際、興味を持ってくれた来場者の方々と研究員の間で活発なコミュニケーションが生まれていて、双方にとって良い機会になったのではないかと思います。
自身の研究内容を説明している研究員。メンバーそれぞれの研究内容のプロセスから結果まで1枚のポスターにまとめて展示
スライドのプレゼン形式ではなくポスターセッションというのも面白いですね。
ポスターセッションにしたのは「Sansanで働く楽しさ」も伝えたかったからです。私たちの事業に興味を持って、一緒に働きたいと思ってくれる人がいたらいいなという思いもあって。 会場にポスターを配置し、その研究成果が反映されたプロダクトも実際に触れるように会場をデザインしました。Sansan、Bill One、Contract One、そしてグループ企業のログミーのエリアも用意して、来場者の皆さまが自身の足で回ってSansanの世界観を感じられるように工夫しました。1時間以上楽しんでくれる来場者もいて嬉しかったです。
会場では、研究成果から生まれたプロダクトの機能を体験してもらい、研究員とコミュニケーションをとりやすい環境を作りました
ウソや誇張でごまかさない。
「本音」で話し合える環境がある
糟谷さん自身が研究開発に携わる中で変わらず大切にしていることはなんでしょう。
常に「本音」で話し合うことです。研究開発の世界では「インパクトがあることを言わないと企画が通らない」という雰囲気がありまして。リアリティがなくても「事業は3年で形になる」「1000億円の事業になる」など、大きな成果をアピールしないと補助金が受給できなかったり、研究テーマ自体が承認されなかったりすると言われています。そもそも研究者はハッタリを話すことが苦手なのに(笑)。
なるほど、それを強いられる環境はストレスですし辛いことですね。 Sansanでは「本音」で話せていますか?
はい、話せています。 他部門のメンバーとの垣根も低く、お互いをリスペクトし合える関係性が成り立っているので本音で会話がしやすいんです。それに経営メンバーとの距離も近いので、彼らの考え方を常に身近に感じながら、皆で同じゴールに向かうことができます。この感覚があれば、この先会社の規模がどんなに大きくなっても、恐れているような事態にはならないと思っています。
「本音」で語れる環境を守り続けることが、メンバーの働きやすさにもつながると。こうした環境の中で糟谷さんが今後やっていきたいことがあったら教えてください。
社内における研究開発の立場をさらに強固なものにしていきたいです。Sansanにはさまざまなグループ企業があり、いろいろな技術が必要とされているので、そこに貢献することで私たちの存在感を示していきたいです。
そのためには若い世代への教育も大切だと思っています。技術だけでなく、例えば「相手の顔を見て話をすることの大切さ」など、人としてごく当たり前のことも含みます。こうしたことが身についていると、技術や知識を習得する時にも速度や深さに差が出るはずですから。
では最後に、これからの研究開発の世界がどのようになると良いと思うか聞かせてください。
教育機関や研究機関での研究と、企業の研究開発とを行き来できる世界になると良いなと思います。研究員人生をどちらかにささげたい人もいるかもしれないし、どちらも成し遂げたい人もいるかもしれない。だからこそ、その時々でやりたいことに集中できるような世界が理想的だと考えています。
今はまだそれが難しいと思っています。幸いSansanには、社会人博士もいるので、Sansanの研究開発が手本となり、この流れが業界全体に広がっていくよう働きかけていきたいです。
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