2017.10.03

【どうして私がDSOCに?!】最終回「出会いを科学する」

こんにちは! 
2017AWのコレクションから秋冬に何着るか考えたいのだけれども、2018SSのゴーシャラブチンスキー×バーバリーのルックがカッコよすぎて頭から離れない、DSOCの西田です。

連載最終回となる今回は、私がDSOCで取り組んでいるビジネスネットワークに関する研究開発について紹介したいと思います!

明日、誰に会えばいいのか?

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企業が築き上げてきた数億もの出会い(つながり)を可視化

現在、私の所属するDSOCでは名刺交換の履歴から構成した「人のつながりのデータ」を分析しています。「人のつながりのデータ」やそれに加えて「企業のつながりのデータ」を分析することで具体的に何が分かるのかというと、企業内外でどのようなコミュニティーが形成されていて、そのコミュニティーはどの業界に精通しているのかが明らかになります。

既存の企業のデータベースにおいて、各企業にはすでに業種がひもづいていますが、実はその業種区分がとても粗かったり、時代の流れに追いつくことができていなかったりしています。そこに、名刺交換から見えてくる「人のつながりのデータ」や「企業のつながりのデータ」を活用することができれば、当たり前ですが時間を通じた人と企業のつながりの変化を捉えられるようになるので、事業戦略を大きく転換した企業についても柔軟に企業がどの業種に分類されるのかが分かるようになります。

このように「人のつながりのデータ」や「企業のつながりのデータ」の分析などを進めていくことで、「誰に会えばいいのか?」という問いに答えることができると考え、「出会いのレコメンド」の開発をゴールとして研究を進めています。

イノベーションを生み出す「ストラクチュアル・ホール」

この「誰に会えばいいのか?」という問いに対して、どのような研究を基にして分析を進めているのか、簡単に紹介したいと思います。

「人のつながり」、すなわち「社会ネットワーク」に関する研究はこれまでに多く実施されており、社会学、経営学の分野などで盛んに行われています。それでは、これまでの研究は「誰に会えばいいのか?」という問いにどのような答えを出してきたのでしょうか?

経営学では、ビジネスネットワークについての研究が進んでいます。「どういう人的ネットワークを持つ人がイノベーションを起こしやすいか?」という問いに対して、「『ストラクチュアル・ホール』を豊富に持つ人」という結論をいくつかの研究が導いています。

この「ストラクチュアル・ホール」を豊富に持つ人とは、簡単に説明すると、「最も情報収集で得をする人」です。では、ネットワーク上における「ストラクチュアル・ホールを持つ」とは、どういう状態を指しているのでしょうか?

ここでは、当社のサービスである名刺アプリ「Eight(エイト)」にかけて、関ジャニ∞のメンバーで構成したネットワーク図で説明したいと思います(笑)!

下の簡単なネットワーク図は、大倉くん、村上くん、丸山くんの3人の関係を示したものです(実際のネットワークを表したものではありません!)。それぞれをつなぐ線は、そこにつながりがあることを意味しています。つまり、大倉くんと村上くんは知り合い、村上くんと丸山くんは知り合いですが、大倉くんと丸山くんは知り合いでないというネットワークです。

このネットワークで考えたとき、最も情報収集において優位な位置にいる人は誰になるでしょうか?

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答えは、「村上くん」です!

なぜ村上くんが情報収集で優位な位置にいると言えるのかというと、大倉くんと丸山くんの2人からの情報を活用できる唯一の存在だからです。この状態のことを指して、村上くんが「ストラクチュアル・ホールを持つ」といいます。この図でいえば、大倉くんと丸山くんの間にある隙間(ホール)を指しているのです。

より詳しく説明します。

大倉くんは、村上くんを介することでしか丸山くんが持つ情報を入手することができません。同様に、丸山くんも村上くんを経由することでしか大倉くんが持つ情報を収集することができません。しかし、村上くんは両者の情報を直接入手することができます。さらに、村上くんが情報を経由させることを止めると、大倉くんと丸山くんは入手できる情報が少なくなります。このようなことから、村上くんは情報収集において優位な立ち位置にあるといえるのです。

それでは、効率的に情報を集められる村上くんにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

例えば、この3人は新しくビジネスを始めたいと考えていたとします。大倉くんは映画業界、丸山くんは音楽業界に精通しており、村上くんは特に専門領域がないものとします。村上くんは自分のネットワークを活用し、大倉くんから映画業界に関する情報、丸山くんから音楽業界に関する情報を集めて、両業界について詳しくなりました。このとき、両業界に精通した唯一の存在である村上くんは映画業界と音楽業界の両業界をつなぐ「ビジネスチャンス」に気付ける確率が高くなるのです。

もし、村上くんが3人で話す機会を設定したとします。その場合には、全員がこの新たなビジネスチャンスに気が付く可能性があります。しかし、村上くんは大倉くんと丸山くんが情報交換をする機会を与えないようにコントロールすることもできるので、そのビジネスチャンスを独り占めすることもできます。

従って、「情報を集めやすいこと」と「情報をコントロールすること」ができる立ち位置にある村上くんは新しいビジネス、ひいてはイノベーションを起こしやすい存在であるといえるのです。

今回の例を見て、ただつながりの多い人が優位ではないかと考えた方もいるかもしれませんが、実際の研究では「ストラクチュアル・ホール」は単純なつながりの多さではなく「拘束性」というネットワーク分析で用いられる指標の一つで数式化されて分析されることが多いです。

このストラクチュアル・ホールの実証研究は盛んに行われており、社内ネットワークにおいてストラクチュアル・ホールを豊かに持つ人ほどイノベーションを創出しやすくなることが、いくつかの研究で示されています。また、イノベーションだけでなく、昇進のスピードやパフォーマンスにも好影響を与えることなども実証的に明らかにされています。

ストラクチュアル・ホール以外にも、イノベーションやパフォーマンスに影響を与えるネットワークの重要な性質は存在します。どのようなネットワークの性質を持つ人がパフォーマンスを向上させているのかを分析していくことで、「誰に会えばいいのか?」という出会いのレコメンドができるようになると考えて、私は名刺交換ネットワークの分析を進めています。

イノベーションの本質は情報の獲得にあり

ストラクチュアル・ホールを言い換えると、「情報収集で優位に立てているか?」を示す指標と言えます。「イノベーションの創出やパフォーマンスの向上をいかに達成するのか?」という問いの本質は、「いかに情報を獲得するか」ということにあります。

今は、いつでもどこでもインターネットで検索することで、情報を集めることができ、多くの人がSNSなどを利用してあらゆるところから情報を集めている時代です。それにもかかわらず、「経済成長のためにイノベーションの加速が課題だ」と世間では考えられていることが多いと思います。

なぜ効率的に情報を組み合わせてイノベーションを生み出すことができていないのでしょうか。これは正解のない問いだと思いますが、私は「誰もが自分の興味関心のある情報ばかり目にすることが多くなり、視野が狭くなっているからだ」と考えています。

SNSやオンラインショッピングなどをはじめとして、ユーザーが気に入りそうなトピックや商品を蓄積されたデータからレコメンドするというシステムが至るところで導入されています。つまり、多くの人が無意識のうちに個々人に対してパーソナライズされた情報のみに触れていることになります。

例えば、オンラインショッピングでのみ本を買うようになると、自分の関心のある本だけを検索することになり、「この商品を買っている人はこの本を買っている」という情報が表示されると思います。このシステムによって、自分の関心のあるジャンルについては効率的に探すことができるようになり、購買者にとってとても便利なものです。

一方で、本屋で本を購入する場合は、自分の関心のないジャンルの本も同時に目にすることになります。「偶然見かけた本が読んでみると実は面白かった」という体験のある方は少なくないはずです。

こういう偶然の出会いのことを「セレンディピティ」といいますが、オンラインショッピングで書籍を購入するようになると、その回数はグッと減ることになるでしょう。つまり、結果として、新しい情報というのが入手しづらくなっているということです。

この話はオンラインショッピングに限定した話ではありません。人とのつながりでも当てはまることがあるのです。

人とのつながりにおいては、「自分と同質の人とつながりやすい」という「ホモフィリー」という事実が確認されています。自分の考えに共感してくれたり、自分と共通の趣味があって親近感出てきたりすることで、自分と似た人同士がつながりやすくなるのです。SNSにおいても、自分と共通点があるからつながるというのは、ごく自然な話でしょう。

このような自分の関心がある情報、自分と同じ意見ばかりに触れるという現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれています。このエコーチェンバー現象によって、多くの人は知らぬ間に視野狭窄になったり、他人の意見に同調するだけで思考停止に陥ったりして、異質なものを組み合わせて新しいものを生み出すことがしづらい状況となっているのではないでしょうか。

偶然を必然に

私は、多様な情報が集まるネットワークの性質を分析することで明らかにして、この視野狭窄や思考停止に陥る状況を打破するべく、セレンディピティを生み出せる「出会いのレコメンド」を開発したいと思っています。

私の経験を振り返ってみると、ファッションの情報を集めるに当たって、SNSを利用していますが、どうしても好きなブランドばかり追いかけてしまい、入手できる情報に偏りがあると感じています。また、私はよく古着屋に行って店員さんと話すことが多いのですが、そのときにその場にいるお客さんとも話すことがしばしばあります。そういった状況では、全く知らないブランドの話、着こなし方の話、どうデニムをカットオフするといい感じになるのかなど、その場にいたからこそ入手できた情報を得られた経験があり、古着屋に行って良かったと思うことは、これまでに何度もありました。

これは、私の趣味であるファッションに限った話ではありません。この連載の記事でも「運命の出会い」と紹介した石川善樹さんとの出会いもまさに「セレンディピティ」です。あのとき、もし善樹さんに出会っていなければ、私はSansanに入社することはなかったでしょうし、またファッションの研究をすることもなかったでしょう。一つの出会いがきっかけとなり、本当に自分がやりたいことをできるようになり、そして「出会うべき人」と出会うことができたと思います。

この私の出会いのように、一人の人間のキャリアを大きく変えるような出会いが偶然でなくて、必然になり、誰もがその体験を享受できる「出会いのレコメンド」を一日でも早く開発し、”ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する”というSansanのミッション達成を目指したいです!

今回で連載は終わりです。

全5回と短い間でしたが、読んでいただきありがとうございました! また、本ブログなどを通して、何かしらの報告ができる機会が作れるように頑張ります!

参考文献

入山章栄(2017)「境界を超える「H型人材」が、世界を変えていく(世界標準の経営理論)」, 『ダイアモンド・ハーバード・ビジネスレビュー』2017年1月号, ダイアモンド社.

キャス・サンスティーン(2017)『選択しないという選択―ビッグデータで変わる「自由」のかたち』(伊達尚美訳) 勁草書房.

過去記事

▼第4回 
師匠にインタビュー!

▼第3回 
Sansanとの出会い

▼第2回 
ビッグデータ分析との出会い

▼第1回 
データ分析との出会い

text: 西田貴紀 photo: byabya