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【つながりに効く、ネットワーク研究小話】vol. 2「つながりと性格の深イイ関係」

DSOC研究員の前嶋です。

今回は、「つながりと性格の深イイ関係」について書きます。

SNSの普及に伴って、その人の「人となり」について知るよりも先に、その人の「つながり」について知ることが可能になりました。実は、ある人の周りに広がる社会ネットワークと、その人の性格は深く関連していることが分かってきています。事前にその人のつながりについて知ることができれば、その人の性格についても、ある程度のことが分かるかもしれません。見知らぬ人と実際に会う前に、その人の性格について手掛かりになる情報があれば、より円滑にコミュニケーションが取れるかもしれないですよね。

例えば、前回の記事ではつながりの「切れやすさ」に関する研究を紹介しましたが、「マキャベリ的知性(≒ずる賢さ)」を持つ人ほど、つながりを積極的に切りやすいという結果が出ています(Kleinbaum 2017)。

心理学では、性格を科学的に捉えるために「パーソナリティ理論」という理論体系が整備されています。数多くのモデルの中でも古典的・一般的なのは、人間の性格を5つの因子で捉える「特性5因子モデル」というモデルです。「ビッグ・ファイブ」とも呼ばれているこの5つの因子は、「外向性」「協調性」「神経症傾向」「勤勉性」「(経験への)開放性」から構成されています。

ビッグ・ファイブとネットワーク構造の関係性は、さまざまな研究が蓄積されていたものの、統一的な見解がありませんでした。しかし最近、Selden and Goodie(2018)が関連する膨大な論文を包括的にレビューして、ネットワークと性格の特性について整理しました。その結果、ビッグ・ファイブとネットワーク構造の最大公約数的な関係は、以下のようになっています。

外向性

外向性の高い人は、他人に対して好意的で、積極的に社交を行う傾向にあります。ネットワーク特性としては、職場での関係や友人関係などのつながりの種類に関わらず、ネットワークサイズ=つながっている人の数が通常よりも多いという傾向にあるということが確認されています。

協調性

協調性の高い人は、他人との衝突を嫌い、利他性が高いという性格特性を持っています。ネットワーキングの傾向としては、ネットワーク構造が時間的に安定しており、また、まだつながっていないグループ間をつなげる役割を担っているようです。しかし、全体的にあまり一貫した結果が得られていないようで、今後の研究が待たれています。

神経症傾向

神経症傾向の高い人は、不安やストレスへの感度が高く、他人に対する不満が多い傾向にあります。社会関係の面では、実はそれほどネットワークサイズとは関係しないということが分かっています。一部の研究では、ネットワーク閉鎖性が低く、特定のグループ内で人間関係を閉じないことが確認されています。つまり、自分の知り合い同士がつながっているような、密で結束的なつながりは形成しにくいということです。

勤勉性

勤勉性の高い人は、自己規律が強く、慎重に行動し、組織の秩序を守ることを重視します。このような特性を持つ人は、ネットワークサイズという観点では特別な傾向を持たないのですが、家族など特定のグループに閉じて、その内部でつながりをメンテナンスする傾向にあるようです。

(経験への)開放性

開放性の高い人は、新しい体験に対して積極的で、慣習に縛られない行動を執る傾向にあります。ネットワーク形成の傾向はどうでしょうか。外向性の高い人と共通する点ではありますが、開放性の高い人ほど、ネットワークサイズが大きくなるという傾向があるようです。さらに、開放性の高い人は、多種多様な人々と積極的につながる傾向にあると整理されています。このような傾向は、大学の新入生同士のネットワークのように、流動性に富む環境において特に顕著とされています。

さて、ここまでつながりと性格の関係について紹介してきました。実はこの両者の関係は、ネットワーク研究の歴史を考えると、さらに深イイのです。

元をたどると、そもそも社会ネットワーク理論の新しい点は、個人の資質や能力ではなく、その人を取り囲んでいるネットワークの力を強調したことにありました。ネットワーク研究的には、例えば起業家の成功を一つ取ってみても、その人自身の経営に関する知識やスキルだけではなく、どのような人脈を持っているかによっても左右されていると主張します。

従って、個人がどのようなネットワークが形成するか、ということについても、ネットワーク構造の面から説明されました。「多くつながっている人はより多くつながるようになる(優先的選択)」、「自分の知り合い同士は知り合いになりやすくなる(推移性)」など、ネットワーク構造からネットワーク構造の生成を説明するモデルが数多く存在しています。

しかし、このような見方は、ネットワークそれ自体の影響力を過剰評価しており、個人そのものの力を軽視したモデルともいえます。そこで最近では、その人の特性とネットワークの特性を両方バランスよく評価しようという折衷主義的な研究が多く見られるようになってきました。今後のトレンドがどうなっていくか、非常に気になるところです。

次回は、「世界史を変えたつながり」について書きます。歴史学とネットワーク科学の融合領域について紹介しようと思います。

参考文献

川本哲也, 小塩真司, 阿部晋吾, 坪田祐基, 平島太郎, 伊藤大幸, & 谷伊織. (2015). ビッグ・ファイブ・パーソナリティ特性の年齢差と性差: 大規模横断調査による検討. 発達心理学研究, 26(2), 107-122.

Kleinbaum, A. M. (2017). Reorganization and tie decay choices. Management Science, 64(5), 2219-2237.

Selden, M., & Goodie, A. (2018). Review of the effects of Five Factor Model personality traits on network structures and perceptions of structure. Social Networks, 52, 81-99.

※ 本連載の続きは、「Sansan Builders Box」で読むことができます。

過去の記事

▼Vol. 1
切れやすいつながりの見つけ方

text: DSOC R&Dグループ 前嶋直樹